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東京地方裁判所 平成7年(ワ)20429号 判決

原告 センチュリー・リーシング・システム株式会社

右代表者代表取締役 設楽勝

右訴訟代理人弁護士 山川萬次郎

同 吉村誠

被告 株式会社北浦ゴルフ倶楽部

右代表者代表取締役 黒沼萬治

右訴訟代理人弁護士 福島昭宏

被告 大興建設株式会社

右代表者代表取締役 鵜沢勲

右訴訟代理人弁護士 岡崎秀太郎

主文

一  被告大興建設株式会社は、東京地方裁判所平成六年(ル)第七五八四号ゴルフ会員権差押命令(債権者・原告、債務者・被告大興建設株式会社、第三債務者・被告株式会社北浦ゴルフ倶楽部)により差し押さえられた別紙目録記載のゴルフ会員権について、原告に譲渡する命令の効力が生じたときは、右ゴルフ会員権につき、被告株式会社北浦ゴルフ倶楽部に対し、原告への名義変更承認申請手続をせよ。

二  被告株式会社北浦ゴルフ倶楽部は、前項により名義変更承認申請手続がなされたときは、別紙目録記載のゴルフ会員権につき、原告への名義書換手続をせよ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  判断の基礎となる事実

1  原告は、被告大興建設株式会社(以下「被告大興建設」という)ほか二名の各自が原告に対し、九六〇〇万円及びこれに対する平成四年一〇月二四日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払うべき旨を命ずる確定判決を有する。

2  被告大興建設は、被告株式会社北浦ゴルフ倶楽部(以下「被告北浦」という)が経営する北浦カントリークラブのゴルフ会員権である別紙目録一及び二記載のゴルフ会員権(以下、別紙目録一記載のゴルフ会員権を「本件ゴルフ会員権一」、別紙目録二記載のゴルフ会員権を「本件ゴルフ会員権二」といい、両者合わせて「本件ゴルフ会員権」という)を所有していた。

3  原告は前記1の請求権を保全するため、その訴訟提起前に、本件ゴルフ会員権について仮差押えの申立てをした(東京地方裁判所平成五年ヨ第一四七三号仮差押命令申立事件)。本件ゴルフ会員権は二口あり、右仮差押えの申立書に添付された原告の報告書(甲第四号証)には、その旨が記載されている。ところが、右仮差押えの申立書の申立ての趣旨には、仮差押えを求めるゴルフ会員権の表示として、次のような記載がされており、東京地方裁判所は、平成五年三月二日、右申立ての趣旨のとおりの仮差押えの決定をした(以下、この決定を「本件仮差押命令」という)。

被告大興建設が被告北浦に対して有する後記ゴルフ会員権

一  法人の名称、代表者の氏名及びゴルフ場名

株式会社北浦ゴルフ倶楽部

右代表者代表取締役 黒沼萬治

北浦ゴルフ倶楽部

二  登録者氏名

大興建設株式会社

三  預託金額 一八〇〇万円

なお、本件仮差押命令の仮差押債権(請求債権)の額は七三〇〇万円である。

4 本件仮差押命令は被告北浦に送達され、同被告は、平成五年三月二五日、右仮差押えに係るゴルフ会員権がある旨の陳述書を東京地方裁判所に提出した(同月二六日裁判所受付)。

その後、原告は東京地方裁判所に対し、第一項の債務名義に基づいて、本件ゴルフ会員権の差押えの申立てをし、平成六年一〇月二四日、その旨の決定を得た。右差押命令は、同月二五日、被告北浦に送達されたが、これに対して被告北浦は、本件ゴルフ会員権二は存在するが、本件ゴルフ会員権一は存在しない旨の陳述書を同裁判所に提出した。

その後の調査により、本件ゴルフ会員権一は、平成六年三月二日、被告大興建設から第三者に譲渡され、同月四日、被告北浦が譲渡承認をしたことが判明した。

(以上の事実は、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認めることができる。)

二  争点

本件仮差押命令の効力が本件ゴルフ会員権一に及ぶか。

三  争点に関する当事者の主張の概略

1  原告の主張

本件仮差押命令の請求債権額は七三〇〇万円である。本件仮差押命令は、この請求債権の執行保全のために、被告大興建設が所有する北浦ゴルフ倶楽部のゴルフ会員権を仮に差し押さえるものである。そして、本件仮差押命令の仮差押えの目的物の表示は、前記一の3記載のとおり、ゴルフ会員権を一口と限定してはおらず、一方、本件仮差押命令が被告北浦に送達された当時の本件ゴルフ会員権の一口当たりの処分価格は八〇〇万円程度であったのであるから、本件仮差押命令の仮差押えの効力は、二口ある本件ゴルフ会員権の双方に及んでいることが明らかである。

仮に、被告北浦主張のように、本件仮差押命令が本件ゴルフ会員権のうちの一口のみであるとしたならば、本件仮差押命令においてはゴルフ会員権は特定されていないことになり、特定されていないゴルフ会員権のいずれを処分できるかをゴルフ場が任意に選ぶ権限はないはずである。したがって、そのように解しても、被告北浦が本件ゴルフ会員権一について譲渡を承認することは、仮差押命令に違反し、許されない。

2  被告北浦の主張

本件仮差押命令は、本件ゴルフ会員権のうちの一口を仮差押えの対象としているのであり、二口を差し押さえる趣旨ではない。そして、債務者が同じゴルフ場の会員権を複数有するといった例外的な場合には、仮差押えの申立人としては、どのゴルフ会員権を差し押さえるのかを会員権番号等で特定しなければならず、そのような特定をしなかったことによる不利益は、申立人自らが負うべきであり、これを第三債務者に負わせるべきではない。

本件ゴルフ会員権一は、法人名は大興建設株式会社、代表者名は鵜沢勇、登録者氏名も鵜沢勇であり、一方、本件ゴルフ会員権二は、法人名は大興建設株式会社、代表者名は鵜沢勲、登録者氏名も鵜沢勲であった。そして、本件仮差押命令の当事者目録の債務者の記載は、大興建設株式会社、右代表者代表取締役鵜沢勲となっていた。そのため、被告北浦としては、二口の本件ゴルフ会員権のうち、本件ゴルフ会員権二が仮差押えの対象であると判断したのである。

3  被告大興建設の主張

本件においては、原告及び被告大興建設は、ゴルフ会員権を表象する「預り証」を占有していないから、裁判所がゴルフ会員権の譲渡を命じても、本件ゴルフ会員権には効力を生じない。

第三争点に対する判断

一  本件仮差押命令の効力の及ぶ範囲

本件仮差押命令の仮差押えの目的物の表示は、前記第二の一の3記載のとおりであり、右記載によれば、会員名大興建設株式会社、預託金額一八〇〇万円の北浦ゴルフ倶楽部のゴルフ会員権を仮差押えの目的物とすることが明らかにされている。しかし、その表示の中にゴルフ会員権の口数の記載はなく、一方、被告北浦は、本件仮差押えの効力が発生した当時、二口の右ゴルフ会員権を所有していた。この場合に、本件仮差押命令の効力は右二口のゴルフ会員権に及ぶのか、いずれか一口のみか、又は本件仮差押命令は目的物の特定が不十分で無効な仮差押えであるのかが本件の争点である。

そこで検討するのに、本件仮差押命令の仮差押債権(請求債権)の額は七三〇〇万円であり、本件仮差押命令が第三債務者に送達された当時の右二口のゴルフ会員権の価格の合計額は明らかにこれを下回っていたことからすると、本件仮差押命令により、右二口のゴルフ会員権は双方とも仮に差し押さえられたものと解するのが相当であり、したがって、本件仮差押命令の効力は、右二口のゴルフ会員権に及んでいるものと解される。

被告北浦は、本件仮差押えの目的物の表示が二口のゴルフ会員権とはされていないことを理由に、本件仮差押えは右二口のゴルフ会員権のうちの一口を目的としているものと解し、かつ、本件ゴルフ会員権二の会員の代表者名は本件仮差押命令中の債務者の代表者名と同じ鵜沢勲であり、本件ゴルフ会員権一の会員の代表者名はこれと異なる鵜沢勇との表示であったことを理由に、本件仮差押えの対象となったのは本件ゴルフ会員権二であると主張する。しかし、本件ゴルフ会員権一の会員の代表者名が本件仮差押命令の当事者目録の債務者代表者の記載と一致しないという理由から、本件ゴルフ会員権一が本件仮差押命令の目的物から当然に除外されるという議論は、説得力に欠ける。仮差押命令中の債務者の代表者の表示は、単に債務者を特定する目的で記載されているにすぎず、独立の権利主体の表示としての意味を持つものではない。被告北浦の右主張は理由がない。

被告大興建設の主張は、独自の見解を展開するものであり、採用できない。

二  結論

以上のとおり、本件仮差押命令は本件ゴルフ会員権一及び二の双方について効力を有するから、原告の被告らに対する請求は理由がある。

よって、原告の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 園尾隆司)

〈以下省略〉

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